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大人になるって素敵なこと。

 中学生の時、淡い恋心を抱いていた男の子がいた。幼稚園時代のまあくんを除けば、たぶんあれは私の初恋だ。

 あの頃、私はとても内気な少女だった。親しくない人と話すときには、すぐ顔が赤くなり、その頬の赤さがさらなる赤面を呼ぶような、まあ、思春期にありがちな自意識の過剰を抱えていた。

 だから、彼と言葉を交わすなんてもってのほかだった。縁なし眼鏡をかけた横顔を盗み見たり、誰かと話すやわらかい声に耳を傾けることが、私にとっての恋だったのだ。

 そんな悠長なことをしているうちに、彼は隣のクラスのSちゃんと交際を始めた。瞳がくりくりと大きく、舌足らずな口調が愛らしい女の子だった。どこからか流れてきた噂でそれを知ったのは、確か中間考査の一日目の朝で、その日の試験はまったく身が入らなかった。皆が鉛筆を走らせる静かな時間の中で、私はこっそり泣いた。印刷された英文が、涙で滲んだのを覚えている。
 私の初恋は、始まる前に終わったのだった。

 *

 数年前、同窓会で彼に再会した。

 偶然同じテーブルについた私は、アルコールが入った勢いもあり、驚くほど流暢に彼と会話を交わしていた。お互いの仕事のこと。共有することのなかったはずの学生時代の思い出話。そして少し前結婚したという彼の奥さんの話。まるでずっとそうして言葉を交わしてきた親しい友のように。

 酔いがまわってぼんやりした頭で、私は思っていた。
――大人になるって素敵だなあ。大人になるって、初恋の人とこうして気安く話せるようになることなんだ。

 「また皆で飲みにでもいこうよ」

 ごく自然に、携帯番号を交換して別れた。彼のシャツは、きちんとアイロンがあてられ、洗剤のいいにおいがした。幸せなんだなと思った。当たり前だけれど、私はもう泣かなかった。

 つい数日前、その彼からメールがきた。あれ以来連絡が来ることもなかったし、番号を交換したことも忘れていた。
 内容は、子どもが生まれたから、その内祝いを私の会社で注文したい、とのこと。そういえば同窓会の時、「社割があるから、もし入用のときは言ってね」と伝えた気がする。

 メールを見て、なぜか笑いが込み上げた。――おお、子どもときたか。

 時間の流れは、すさまじい。 十年前と比べて、正直、自分自身あまり変化している実感がなかった。いつまでも同じようなことでうじうじ悩んで、まったく進歩がないじゃないかと。
 けれど、確実に時間は過ぎているのだ。初恋の人が、自らの子どもを持つくらいには。

 すぐさま「おめでとう」と返信し、依頼された注文手続きをいそいそと行った。

 熨斗に入れる名前からして、生まれた子どもは男の子のようだ。大層な二文字の漢字に、難解なふりがなが振られてるのを見て、彼が中学時代ビジュアル系バンドのファンだったことを思い出す。共通の話題で笑い合うことを夢見て、何度も舌で言葉を転がしていた私の姿も同時に。

 たとえば――。ふと私は思う。たとえば十数年後、彼の息子も、私のような内気な少女に想われることがあるのだろうか。そしてそれにまったく気づかず、他の可愛らしい女の子と恋をしたりするのだろうか。

 あの頃必死に追っていた横顔をたどって、彼に似ているだろう少年を描こうとするけれど、まったく像を結ばない。

 それどころか、彼の顔すらうまく思い出せない自分に気づいて、私はひとり苦笑した。

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コメント

ああー、せつない。とてもせつない。
きゅーっとなったよ。
大人になるって、時が経つって、それだけで実はすごい大きな意味をもつことなんだなぁ・・・。
はぁ、身につまされるよ。

てか、誰だろう・・・?
これまでの人生の大事件はお互いに知り尽くしてる気がしてたけど、あみの初恋を知らなかったということがちょっとびっくりでショック。
ちなみに私の初恋Nくんは、大学4回生のときに初めてまともに喋り、就職で東京に行くと聞いたっきり・・・。どうしてるかなー(遠い目)。

あれ、のんたん知らんかったっけ!? 言ったつもりでいた……。Mくんですよ。って言ってもわからんかな。まああの頃は恋愛感情を表に出すことすらこっ恥ずかしかったからね。そう考えるとうちらもすれたもんだ(笑)

あはは、きゅーっとなってくれてありがとう。思い出っていつも切ないよね。どうしたって戻ることができない世界やもんね。
でも大人になるってきっといいことだよ。「戻ることができない」ってことを認識できただけでも少しは成長できた気がするよ。あの頃は未来も過去も思うことなく、「いま」に精一杯だったもんね。

のんたんの初恋のNくんは、聞いた気もするけど記憶があやふやだ……。うちら底の底までさらけ出してるくせに、初恋のピュアな思い出についてはあんまり話したことないよね(笑)

次会ったときはそのへんを語りましょう。ふふふ。
そういうのも大人になったからできることやね。

Mくん・・・ま、み、む、め、め?、も・・・わからん・・・。
あー気になるー。気になるよー。

そうやったねーあの頃はやたらに何もかもこっぱずかしかったねぇ。
Nくんの名前を声に出すのも恥じらう14歳だったわ。
大したことないことに精一杯でいられたのは、幸せなことやったんよね。
(Nくんは、うちらと同じ大学のN谷くんだよ。って、わかりにくいか)

過去を過去として思い起こせるだけでも大人になったってことなのかもねぇ。
思い出っていうひとつの形に昇華されたからこそ難なく扱えるようになってるのかもね。
私なんて今のしんどさから無意識に逃げようとしてるみたいで、夢には過去の彼氏が夜な夜な出てくる始末。
思い出は美化されてるから困るわー。

次会ったときはピュアな初恋の思い出を語り合いましょう(笑)
大人になるのは悪いことじゃないね。

N谷くん!!!!懐かしい! あれ、のんちゃんそうやったっけ?! やっぱピュア恋愛はお互いあんまり触れてなかったみたいね(笑)

のんちゃん今しんどいやろうなあ……。思い出が美化されるのはすごいわかるわ。でも美化できるような過去があることは幸福なことなんだと思ったり。
過去を過去と扱えるくらい大人にはなったのかもだけど、相変わらず悩みはつきないよなあ。まあでもそういうこともひっくるめて、またいろいろしゃべろうぜ。ネタにして茶化しながらね(笑)

あ、Mくんは「も」です。

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